最期に聴く音声
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作:黒川雅美
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【キャラ紹介】
若い女の子が主人公
屍術であなたを蘇生させようとしている所です
きっと上手くいかないでしょう
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【シナリオ】
とても死人には見えない、安らかな寝顔だ
もう少し、眠っていてくれ
私が必ず、この私「大呪術師ヴェラ」様が絶対にお前さんを目覚めさせてみせるからな
だからそれまでの間、せめて安らかな夢を見ていてくれ
ふふっ……とはいっても、居心地の良過ぎる夢は見ないでくれよ
折角お前さんの魂を呼び戻せても、「死者の国から帰りたくなかった」などと恨み言を呟かれては困るからな
いや……それとも、たっぷりと気楽な夢を見ていてもらおうか
その方が、後のお仕置が心に染みるだろうから
お仕置というのはもちろん、勝手に死んだお前さんへの罰の事だよ
「呪術師」の恐ろしさを骨の髄まで味合わせてやろう
……不服か?
当然であろう?
お前さんは私という「ご主人様」の許可も得ずに、勝手に身勝手な行動をして死んでしまったという、許しがたい「助手」なのだよ
あの時だってお前さんは私の命令に従わなくてはいけなかったんだ……
なぜ私を庇ったりなんてしたんだ
私は不死なんだぞ、そんな私を庇って死ぬとは……まったくバカな助手を持ったご主人様は大変だよ
良かったなぁお前さんのご主人様が「孤高の呪術師」で
「魂の蘇生」は禁術中の禁術、私のような優秀で放埓で不道徳な呪術師にしか扱えない物だからね
……ふふっ、そういえば以前一度、お前さんは私の呪術師の腕を疑ってくれたな
「孤高を気取ってるのは、友達がいないからでは?」などと失礼極まりない言動で私をからかってくれたな
ふっふふふ、期待していたまえ、私がどこの派閥にも所属しないのはその知性と美貌ゆえだという事を、お前さんの魂に嫌という程教えこんでやろう
思えば生前のお前さんは、私に対して酷く失礼な助手であったな
他にも随分と失礼な物言いをしてくれたな、全部覚えているぞ
初対面の時だっていきなり私を小娘扱いしてくれたな、なにが「お母さんは居るかい?」だ!
私の助手を志願したときも、「僕を雇わないと困るのはお前さんの方では?」などと下らぬ挑発をしてくれ
さらに私が術に失敗するたびに「失敗は成功の元」だのと、お前さんは素人の分際に過ぎないクセに随分わかったような口調で説教してくれたな
まったくつくづく無能な助手だったよお前さんは
……まぁ料理が上手かった点だけは、評価してあげなくも無いか
だがしかし、その所為で私の無駄に舌が肥えてしまってな
以前の乾燥肉だけの生活では些かストレスを感じるようになってしまってたよ
だからな、最近料理をするようになったのだよ
ふふっ、信じられないか? 私が料理してる姿なんて想像もできないだろう?
これでなかなか、結構上達してきたのだぞ
まぁ、私は天才だからな
呪術師一族の中でも名門中の名門、「シンクレア家」の中でも優秀すぎて異端児扱いされた私
そんな優秀、いや超優秀な私にとっては「料理」だなんて簡単に極められるのだよ
無事お前さんを蘇生できた暁には、私がハンバーガーとやらを作ってやろう
例えお前さんの一番得意な料理であっても、私の方がはるかにおいしくつくれるという絶望を味合わせてやる
今はまだ……あまり上手く作れないがな
もうちょっとで「食べられる」程度の物は作れそうなのだ
あとホントにちょっとでな
だからまぁ……
……そうだ、文句といえば花壇だ
貴様、私があれほど「止せ」と命じていたにも関わらず裏庭の花壇に花を植えたな
あれ程よせといったのに……立派な花畑にしてくれて
どうしてくれるんだ、私は園芸なんてわからないんだぞ
いや、もちろん……私は天才なのだから、園芸だって学ぼうと思えば直ぐにマスターできる
しかしだ、もう、もう花が枯れ始めてるのだ
そのだな、いや、がんばって学んではいるのだが、何をすればいいのか……
私は、苦手なんだこういうのは
なんでもできるわけではないんだ
特にその……あの手のか弱い生き物の相手は無理だ
私には枯らすことしか……
なぜ花を植えたんだ
嫌味か……お前さんも私をバカに……いや、なんでもない
……話を変えよう
お前さんをどうやって蘇生させるかの、についてでも語ろうか
私が今回用いる手法は3912年ウィーラが開発した霊魂フラックスの選択操作法を、
この霊子チャネルが編みこまれたされた改良物性皮膜を使って行う
改良物性皮膜による魂の選別性能は3901年のベアリング氏の論文で実証済みだからな
だがベアリング氏と違って私は屍工学を修めていない、なので代わりに私の得意な生体再構成分野の技術を応用して皮膜を作ってみた次第だ
この改良物性皮膜は一応ネコの魂はほぼ100パーセント、一切のコンタミネーションなく隔離できることが実証ずみなのだが
いかんせん人間の魂は今だ32パーセントのコンタミネー……ふふっ
まぁ、この手の話は呪術師としての素養を持たないお前さんに話しても無駄か
呪術学校の学生達なら泣いて喜ぶだろう非常に有意義な私の講義も、お前さんのような低脳な助手にはブタに真珠か
だが、それほど気に病まなくても良い
例え呪術学校の教授であろうとも、私のこの完璧で美しい理論を一パーセントだって理解できてないからな
無学のお前さんに話すのも、私からすれば稚児レベルの知識の教授に語るのも、こうして死体相手に一人嘯くのも……どれも等しく無意味だ
私が真の意味で孤独を感じなかったことは、いままでの生涯で一度だってないのだよ
そうだ、一度だってない
だからお前さんはそこで、なに一つ気に病むことなく死んでいて良いのだぞ
私はお前如きが居なくなった程度では、うろたえたりもしないし、寂しがったりもしないのだ
本当だぞ? こうして毎日話しかけてるのだって、別にただの暇つぶしだ
まぁでも……この屋敷が汚くなるのだけは、少し気にならんでもないな
さっさと生き返らせて、掃除掃除掃除の日々を楽しませてやろうかな
もちろん私は絶対に掃除なんてしないぞ、そんな召使い染みた真似、私には似合わないからな
ためしにやってみたが、料理と違って全く楽しくなかった
あんなつまらない事、もう二度と、一秒だってやりたくない
……生前、お前はなんであんな作業を楽しそうに日々やっていたのだ?
確かに私は「やれ」と命令していたし、お前さんは私の助手……いや、奴隷なのだから、当然といえば当然なのだが……
なにか、こう、私のやり方が間違っているだけで、実は掃除を楽しくやる方法があるのか?
蘇生が成功した暁には、是非教えてもらいたいものだな
……教わるといえば、そうだ
お前さん、結局私にお前の国の文字を教えてくれなかったな
いつもいつも「今日は忙しい」やら「ちょっと今は思い出せない」やらふざけた理由でのらりくらりかわしてよって
お陰で貴様の日記が読めないだろ
その所為で私はかなり無駄な苦労をすることになったのだからな
例えば……裏の花壇になかなか気づけなかった事だ
もっと早く気づけていれば、もうちょっと枯らす事無く……あの花壇の、一番美しい姿を見れたのに……
それだけじゃない
私は、お前さんの事を何も知らないのだ
ずっと知っている気になっていた、でもお前さんが死んでやっと気づいたんだ
お前さんは何処から来たのだ? 家族は居るのか? 友達は?
何一つ、私に話してくれなかったな
……別に、それが、そんな事が不満なわけではないぞ! 勘違いするなよ!
私はお前さんのような低俗な人間のプライバシーなんぞに興味なんてこれっぽっちも無いし、別に隠し事をされてたからって傷つくような繊細な人間でもない!
ただ……ただその、なんだ? その……
そう! 蘇生だ、蘇生する上で、そういう情報は重要なのだ!
だからその……いろいろ、話しておいて欲しかったのだ……
まぁ別にお前さんの魂はそれほど拡散してはいないからね
そんな情報が無くても、天才の私なら、大丈夫なのだよ
ちょっと時間はかかるかも知れないが……直せないものでもないからね
上手くいけばかかっても百年程度で、お前さんを蘇生できるはずだ
ん、今「百年!? 長過ぎだよ!?」と思っただろ?
悪く思わないでくれよ、これでも全速力なのだ
「魂」は呪術の中でも最も複雑なジャンルだし、その中でも「蘇生」は格段に難解な術なんだ
だからその……勉強しなくちゃいけないんだ……
今の私には、まだ扱えないんだ
し、しかたないだろう、人には得意不得意があるんだ
複雑な術を扱うのは、あまり得意じゃないんだ
……なにやってるんだ私は
はたから見れば滑稽だな
死人相手に独り言をブツブツと
バカじゃないか、まるで
……いいや、本当にバカなのは、未だに見栄を張ってることか
「孤高の呪術師」「名家シンクレアの異端児」そんな偽りの仮面を、お前さんが死んだ今でも剥がせないでいることか
……全部嘘なんだ
私は、お前さんに語り聞かせていたほど優秀な呪術師ではないんだ
シンクレア家の異端児? ……ふふっ、我ながら稚拙な嘘をついたものだ
本当は、劣等生だったのだ
偉大なるシンクレア一族の長女だというのに、呪術に何一つ才能をもっていなかった……
小動物はもちろん、植物の魂さえもろくに扱うことのできない、凡人以下の娘だった
そして次女は、アイツはそんな私よりも遥かに優秀だった
次女の方が、私よりも何倍もシンクレア家の長女にふさわしかった
だから、私は……皆にとって邪魔な存在だった
母も父も、下の妹達も、誰も私を次女から守ろうとはしてくれなかった……
逃げるしかなかった
逃げて、ここで、一人生きて行くしか……
……不死身だなんてのも嘘だ、私は普通に死ぬ
そうだよ、あの時お前さんが命を賭して私を庇ってくれなかったら、今頃そこに横たわっているのはお前さんではなく私だったのだ
お前さん……全部気づいていたのか?
だから……私を庇ったのか?
私の、全部を知って……
いつも泣いてばかりで、母からはなんの才能も受け継がなくって、一族からも追い払われた、そんな私の正体を?
私が、無力で、何もできない、ただの見栄っ張りな小娘だという事を、知っていたのか……
でも……でも、違うんだ、今回だけは違うんだ
今回はやりとげてみせるから。
今度ばかりは、必ず
必ずお前さんを蘇生させてみせる
私一人で、絶対に……
(鼻をすする音)
……ダメだな、私は本当に弱い人間だ
私がこんな風に泣き言ばかり言ってると、お前さんは優しく叱責してくれたね
プライドばかり高かった私は、そんなお前さんの優しさを一度だって素直に受け取らなかった
とても後悔しているんだよ、その事を
お前さんに伝えたいんだ、お前さんに謝りたいんだ、お前さんに……
……私には、お前さんが必要なんだ
だから、私はお前さんを生き返らせる
何年かかってでも、何を犠牲にしてでも
お前さんに……また逢いたい
お前さんの優しい言葉が聞きたい……
作:AmphibiA
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【キャラ紹介】
聞き手……何の変哲も無い村から幼なじみを連れ魔王を倒す旅に出発、後に本当に魔王を倒し勇者と讃えられた男です。現在は国の王女様と婚約し、お城で暮らしています。
女性……勇者の幼なじみ。引っ込み思案ですが勇者のことを思い一生懸命つくし、勇者や仲間と共に魔王を倒しました。現在は勇者以外の仲間たちと世界中にある遺跡を調査して回っていたのですが、ある日とある国に立ち寄ると…
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【シナリオ】
……ホント、もうすぐ死んじゃうっていうのに……そんな落ち着いた顔、なんで出来るのさ。
何処からそんな余裕が出てくるの……ワタシだったら無理だよ、こんな時にそんな顔なんて。
絶対にもっと、……絶望した顔になっちゃうんだろうな。
ねぇ、……覚えてる? あの……魔王の最期の顔、さ。そう言えば魔王の顔も、安らかだったよね。
最期の瞬間って、そんなものなのかな……ワタシには分かんないや……。
……でもワタシたち、ホントに倒したんだよね。魔王を。王様からは「おぉ勇者よ!」なんて言われちゃって……あはは、あの時は思わず照れちゃったよ。
今だから言うケド……冒険に誘ってもらってさ、一緒に出発して、そのうち仲間も増えて、応援してくれる人もたくさん出来て……それでも絶対、魔王を倒して世界を救うだなんて無理だって思ってた。
きっと何処かで挫折して諦めちゃうか、……それともみんな途中で死んじゃうんだって、こっそり泣いた日もたまにはあったよ。……知ってた? なーんて、そんなこと無いか。鈍感だもんね、キミ。
だからこんな、今だってワタシの気も知らないでのんびりとした顔しちゃってさ。
でも、……ホントに倒したんだね。みんなと、仲間と一緒に。魔王を。
ワタシの回復魔法、役に立ってたかな? 一応、精霊さまのご加護もキチンと受けてたんだケド……キミの痛がる顔だけは見たくなかったから、頑張ったんだよ?
もう何度もダメだって思ったケド……あの時だってみんな死にそうになって、キミも苦しそうで……だからワタシが頑張らなきゃって、キミだけは死なせないって……。
そしたらキミったら、「他の仲間から先に回復を!」って言うんだもん、……ホント、昔から自分のことは後回しだったよね。キミのそういうところは少しだけ……ほんの少しだけ嫌、だったかな。
でも最後にはみんな無事なまま、魔王を倒せたね。誰も死なずに、王様も精霊さまもみんなみんな喜んでくれた。祝福してくれた。そしてみんなみんな、たくさんの人がそばに居てくれた。
でも、結局はこう……こうなる、の、かな……最期はみんな、こう……こんな、独りに……?
うぅ……うぅう…。
ねぇ、……起きてよ、ワタシのこと、置いて逝かないで……独りにしないでよ……知ってるでしょ? ワタシ、引っ込み思案で……昔から友達も居なくて……キミだけだったよ、構ってくれたのは。
だからあの日、冒険に行こうって誘われた時……目の前に勇者様が現れたって、何となく信じちゃった。……あはは、ワタシってば単純よね。
でも、……孤独なワタシを救ってくれた勇者様と、一緒に冒険をしている。そう思うとワタシは、いつだってとびきりの笑顔で戦えた。まぁたまにくじけそうにもなったケドね、あはは……。
それでも独りに脅えて生きるより、キミと一緒に死ぬならソレもありだなって、……ちょっとおかしな考え方かもしれないケド、でもホントにそう思ってたんだよ?
ソレは今だって、こんなときだって、変わらない……変わってない。コレは、コレだけはホントのワタシの気持ち。ソレだけは、……こうなってしまった今でも、せめて聞いていてほしかった。
ん、……あはは、ダメだね、コレは言わないでおこうって、思ってたケド……やっぱりダメ。今、言っておくね?もう、コレが最後なんだし。
ワタシ、キミのことが……えっと、……あはは、他に誰もいないのにワタシってば何、照れてるんだろうね……。
……うん。言うね?
ワタシ、キミのことが、……好きだった。本当に。……ううん、今でも好き。大好き。キミのことが。
……あはは、なーんて、ここまで前振りしてたらこうくるのはバレちゃってたかな?
思えば一緒に冒険したみんなは、よくワタシたちのこと冷やかしてたよね……そのたびにキミは誤魔化してたケド、ワタシは本気だった。
でもさすがに、……少しは気づいてたよね? 思ってたよね? 態度には出てたと……思うんだけどな。
あはは……なんで今、こんなこと言っちゃうんだろうね……今さら、こんなこと何の意味も……慰めにもならないのに。キミには王女様だって居る……そうだよ、王女様……居たもん、ね。
あ……なんだかここ……寒いね。床が、冷たいのかな。
ゴメンね、せめて身体を温めてあげたいケド……どうやったら良いのか、分からない、よ……。
こういう時、【人肌で温める】って言うのかな……仲間のみんなも、よく冷やかしてたね。「俺らは宿に居るからごゆっくり!」ってワタシたちを馬車に残してさ。
あはは、酷いよね。宿の方が絶対過ごしやすいのに……「雨で濡れた身体を温めるには、人肌が一番だ!」って。「服が透けたまま宿に行くのか?」って。もう、ホントにデリカシーのない人たちだった、よね……。
まぁ、あのときは結局なにもなかったケド……。
べ、……別に期待してたワケじゃ、ない、よ? でも、……何かあっても、その……ワタシは、良かった。構わなかった。
だから、……今、あのときは出来なかったこと、してくれなかったこと、……するね。
……
……
ん……。
……
……
……ねぇ、見てるのかな? ……なんて、ムリだよね。分かってる。だからこそ、……今、こうしてるんだよね。
こんな事にでもならなかったら、こんなこと一生しなかっただろうな……。
でも……やっぱり、やめるね。こんなワタシが、キミに触れちゃダメなんだ。
こんな……こんな身体になっちゃったら。せめてキミだけはキレイなままで……いてほしい、から。
……
……
……
……
う、うぅう……
なんで、なんでこんな事に……
なんでこんな事に、なっちゃったの……?
なんで、なんでなんでなんで!?
なんでみんな、ワタシたちを殺そうとするの!?
あんなに優しかった、祝福してくれたみんなは何処に行ってしまったの!?
ワタシたち、頑張ったじゃない!
どれだけボロボロになっても、死んでしまいそうになっても、みんなのため、世界のためだって!
キミは歯を食いしばって……頑張ったのに……。
なのにどうして! なんで!
王様だってあんなに喜んでたのに!
何? 何なの!? 討伐隊って! なんでワタシたちを討伐するの!?
アイツらは異常だ、バケモノだ、だから魔王を倒せたんだって!
なんでそんなこと言われなきゃいけないの!?
みんなみんな、仲間はみんな死んじゃったっ……死んじゃった、んだよ……?
何なのっ!? 何でなのっ!? なんで……何であんな、あんな残酷な殺され方しなくちゃ、いけないのっ……!
生きてた、生きてたんだよ!? 生きてたのに、お腹を、……切り、裂かれて……。
「魔物なら胃袋に人間が詰まってるハズ」だって! そんなワケない、そんなワケないよ! ワタシの仲間が魔物のハズないってどれだけ声を振り絞っても!
ヤツらは人間なんて食べない、そんなヤツになんて遭ったことないってどれだけ叫んでも! 誰も何も聞いてくれなくて!
結局なにも出てこなかったのに……「なるほど、オマエの言うとおり魔物は人間を食べないんだな」って! そんなことじゃない! ワタシの言いたかったことは……そんなことじゃ、なかったのに……。
しかもその時、ワタシはもう魔法が使えなかった……。
あ、あは、あはは、そうなの、そういうことなの、……もう、精霊さまからも見放されちゃったのよ……だから魔法が、使えなくなって……。
ねぇ……ねぇ、起きて、起きてよ、そんな顔しないで、みんなみんな、ワタシたちを裏切ったのよ!? もうオマエらなんか要らないって、この国には、世界には不要だって!
ワタシ聞いた! ハッキリとこの耳で聞いたのよ!
ワタシたち利用されてただけなのよ、世界を救うまで! 魔王を倒すまで!
だからこんな、あっさりと……お城に住んでたキミまで、殺そうとして……王様も、兵士も、みんなみんな、キミを殺そうとして……。
だからワタシ、助けに来たんだよ? 魔法が使えなくなっても、仲間がみんな殺されても、絶対にキミを助けたくてっ……どんなことをしても、キミだけはっ……!
でも、結局……キミは……。
……ねぇ、だからそんな顔しないで!
悪者にされちゃうっていうのに……そんな落ち着いた顔しないでよ!
何処からそんな余裕が出てくるのさっ! ……ワタシだったら無理だよ、絶対に無理!
絶対にもっと、……恨めしい顔になる!
なのに何でそんな、そんな静かでいられるの!? 憎くないのっ!?
だからやめて、やめてやめてっ!
せめてワタシに、伝えてよ……「アイツらを殺してしまいたい」って……「絶対に許さない」って! そしたらワタシ、何でもするよっ!? 絶対にどんな手を使ってでも、みんな殺してみせる!
アイツらをみんな、みんなみんな苦しめてあげなくちゃ……だってそうでしょ!? そうじゃなきゃ、ワタシたちは何のために生きてきたの!?
別に褒めてもらいたいだなんて思ってなかった、ただキミがしたいことを手伝いたかった! ソレだけで良かった! ソレだけのために魔法だって身に付けた!
どんなに痛くても、血が流れても、身体が動かなくなっても、キミのしたいことが手伝えるなら! ソレだけが、ソレだけがワタシを支えてきた!
だから言ってよ! キミが言ってくれるなら、ワタシは何だって出来る! 誰だって殺せる! 魔物だって魔王だってキミが望んだから殺してきたっ! ソレと同じ! ワタシは誰だって殺せる!
でも、……キミが、キミが言ってくれないと……望んでくれないと……ワタシ、誰も殺せない……このまま、ただ殺されるだけになっちゃう……。
ほら、……聞こえる? もう、討伐軍はすぐそこまで……来てるんだよ?
だからそんな、そんな顔しないで……もっともっと、この世界を恨んでよ……キミはこんな時でも、優しすぎる、よ……こんな風になっても自分のことは後回しなんて、ダメだよ……やめてよ……。
……
……
……あはは。
もう、ダメ、だね……。
もう、時間が、……来ちゃった。
ねぇ、知ってる? 見えてる? ワタシの身体、もうこんなになっちゃった……。
コレ、……魔王の身体から生えてたのと同じだよね。黒い、クリスタルみたいなのがこんなにたくさん。
コレ、この力のおかげで、ココまで来れたの。仲間がみんな捕まって、お腹を引き裂かれたとき、急に生えてきたの。
あは、あはは、ワタシだったの。魔物は、ワタシだったのよ。だから言ったのに。「ワタシの仲間が魔物のハズない!」って。魔物は……ううん、魔王は、ワタシなんだから。
いつから、こうだったんだろう?
魔王を倒したときかな?
それとも、みんなのお腹が引き裂かれたとき?
もしかして、もっとずっと前から……。
どっちにしても……ワタシは、ヤツらを殺すよ。
もうワタシには、ヤツらを生かしておく理由が無くなってしまった。
せめてキミが、何か言ってくれれば良かったのに。
ソレが恨み言なら、ヤツらを殺す。存分に。胃袋にヤツらの子供を詰めてからお腹を引き裂いて。
許せと言うなら、ワタシを殺す。ワタシには、許せないから。でもキミが言うなら、ヤツらは殺せない。だからワタシが死んであげる。
でも何も言ってくれないなら……みんなを殺す。
ヤツらも。ワタシも。そしてキミも。
なーんて、キミはもう死んでるか。
……それでも殺す。キミが静かに息を引き取ったことは、ワタシしか知らない。ワタシがヤツらの前でキミの首を落とせば、キミは魔物じゃなくなる。魔物に殺された、哀れな人間になる。人間として死ねる。
そしてヤツらも殺す。大人どもは全員。子供には見ててもらう。キミは旧世界の勇者で、ワタシは新世界の魔王。そうして、また新しい物語が始まるの。キミが善なる勇者として語り継がれるまで、ワタシは死なない。
……!
そっか、きっとあの魔王も……だからあんな顔で……。
……よし。
キミは、キミだけは汚させない。
ワタシは、キミが好きだった。
誰でも優しくて、でも自分にだけは厳しくて。
誰も彼も、思わずキミを助けたくなってしまう。
そんなキミのことが大好きで……そんなワタシのことが、大嫌いだった。
キミには王女様だって居たのにね……最期まで、キミのことを信じていた……。
でも彼女は今、王様の口の中。
あはは、……入りきらなかったよ。
そりゃあ人間だもん、普通に考えればそうだよね。でも、……ソレすらも今のワタシなら、出来る気がする。
だから、……もう行くね。これ以上ここに居たら、キミまで汚してしまいそうだから。
とりあえず、討伐軍は全滅させる。そうやってさらに大勢の人間を集めてから、キミの首を落とすんだ。
だからソレまで……ココで待っていて。
それじゃ……行くね。
今まで、ありがとう。
こんなことになったのは残念だけど……他人が傷ついたとき、キミはいつだって嫌そうな顔をした。……あぁそうだ、思えばキミが嫌そうな顔をするのはいつだって他人が傷ついたときだけだった。
そんなキミが今、そんな顔をするんだから……きっと仕方の無いことなんだろうね。
だからワタシも許そうと思う、人間を。
今からたくさん殺すケド、許そうと思う。
だから期待するんだ。
いつかまた、ワタシの前にキミみたいな勇者が現れるのを。
そしたらキミがワタシを誘ってくれた時みたいに、ワタシはとびきりの笑顔で戦うよ。キミの意志を継いだ……孤独なワタシを殺してくれる、新世界の勇者様と。
それじゃ……ワタシ、頑張るから。キミの分まで。だから安心して、ココで眠っていてほしい。
バイバイ。
作:米田リカ
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【キャラ紹介】
事故で重体の主人公と、その妻であるクソ女です。
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【シナリオ】
…はい、はい、わかりました。
お気をつけていらして下さい。
ぐすっ。…
…すみません…うっうっ…すみません、
ううっ…(嗚咽)
本当にすみません…ぐすっ…それでは、ううっ…失礼します…。
うっ…うっうっ…。うっ…ぐすっ…
…う…、
…くく…くくくく、
くく…ふふふ…
ふふ…ふははは!
っと、いけないいけない。
静かにしないと。でも…でも…、
くくくく…
ふー、
…ねえ、嘘でしょ?ねえ。嘘でしょ?こんな事ってある?
いやない、ないない、絶対ない!
絶対さ、あり得ないってこんな事!
旦那がさ、突然さ、車にひかれて心肺停止なんてさ!
狙ってもこんな事あり得ないでしょ、どんな確率よこれ?
しかもさ、引いた運転手が金持ちのバカ息子って!もうすっごい確率!あたしもう一生分の運使い切ったんじゃないかな?やだどうしよう!
…もう、ありがとー!ほんとありがとー!あなた愛してる!
ねえねえ、保険ガッツリかけといてよかったねぇ!完全な事故だもん、保険金が満額下りるってだけでもちょっとした小金持ちになれるけどさ、こんな不届きものの嫁でも嫁は嫁だもん、キャッシュで買ったクルマとかマンションはあたしだけのものになるし、遺族年金ももらえるでしょ?さらにあの、加害者のバカ息子?あいつん家が勝手に金積んでくれるの確定じゃん?
んもーほんとありがと!ほんっとにありがとね?マジ感謝でーす!うちの旦那マジ最高。
名義変更とか諸々の手続き、面倒だけどきっちりしないとね。いつ頃から始めよっかな?あんまり早すぎると…ねえ?さすがに人の目が気になっちゃうかも。
っつか書類揃えたり書いたり絶対面倒くさいよねー。弁護士雇って丸投げしたいかなー。弁護士費用と…あと税金が痛いけど、まぁ仕方ないっか!
あーあと、あれあれ。なんていうか忘れたけど、旦那が死んだら旦那の親戚との関係を切れちゃうやつ。旦那が死んでからも嫁でいるとか普通に無理っしょ。
子供もいないし、いい人見つけて第二の人生楽しまないとね!あんたもそう思うでしょ?っつかあんたにあたしはそもそも勿体なかったんだって!あんまり2人で遊びに行くことってなかったけどさ、まぁそれは私が拒否ったからなんだけど、でもさー、何回「美女と野獣」って言われたよ?あはは!でもさーそれってしょうがないことじゃん?あたし見てくれと外面だけはいいし。中身はこんなんだけどね、はい心根腐ってまーす!
まぁさすがに若くはないから、婚活は早め早めにしないとね!でもいつぐらいから始めよう?こうなったらあんたの同僚とかでもいいんだけどなー、収入がよくてあんまり家に居ないとか最高だし!誰かいい人紹介して!死ぬのはその後にしてー!なんて。ふふふ。
今思えばさ、いや、実はもうずっと思ってたんだけどさ、あんたってさ、ほんとにほんとにバカだよね!
…こんなときにごめんね?ほんとごめんね?
でもさ、どう考えてもさ、あんたって本当にバカだわ。バカの中のバカ。超絶バカ。
普通さ、風俗嬢と結婚するかって。そりゃあたしは顔もスタイルも良い方だし?店には本気で稼ぎに行ってたから気遣いもできてたしね。
みんなによく聞かれてたわ、なんでそんな客取れんのって。ハッ、バカじゃねって感じだよねー、ちゃんと考えて気ぃ遣ってやってりゃ普通に客取れるっつの!ドブスとかはどうしようもないだろうけどさ、ちょっと相手に合わせてニコニコしてやりゃあいいだけなのに、ほんっとみんな、バカばっかり。
ねぇねぇ、風俗行ったほんとの理由、言おうか?うふふ、言うねー。最後なんだからよく聞きな?
…そんなの決まってんじゃん、遊ぶためと、整形するためだよ!贅沢するためだよ!あははは!
親の借金なわけないじゃん!返す義務ないっつの!
そういえば親には合わせたことなかったもんねー、娘を風俗に堕としてまで借金重ねる寄生虫だから恥ずかしくて会わせられないとか言ったんだっけ、あはは。別に普通の親だと思うけど、遊びと整形のために風俗にいった娘なんか向こうも縁切っちゃいたいんじゃない?
…こんなこと普通のときにバレたら修羅場だよねー。でもさ、あんたはもう死んでくだけなんだから、仮に聞こえてたってどうにもできない、あらまーカワイソー。っつかさ、これ聞こえてたりすることってあんのかな?理解できてたりすんのかな?感情とかまだあんのかな?だったらどうしよー!キャハッ。どんな悪夢だよ?
こんなこと聞きながら死ぬとか、いくらなんでもかわいそすぎでしょ!ウケる。
じゃあここからは、ちゃんと聞かれてるつもりで言うね。懺悔?みたいな感じで!まぁ反省とか一切してないけど!むしろ自分にグッジョブ!って感じだけど!
あのさー、そもそも、こんな嫁ってどうよ?どう思う?…こいつやべーって思うよね?ね?普通そうだよね?
私もさ、ぶっちゃけ今、ちょっとだけ自分に引いてる。旦那がもうすぐ死ぬっていうのに、今めっちゃウキウキしてるんだもん。
正直さ、あんたが突然死なないかなーってことは常々思ってたんだよね。一瞬どうにかして殺せないかなって思ったこともあるよ?でもそれじゃ捕まったらおしまいだし。
だから毎日、あんたが突然死ぬとしたら…ってことを毎日毎日妄想してたの。夢みたいなもんよ。そしたらさ…こんなにあっさり夢が叶っちゃったの!すごくない?うふふ、本当に本当にありがとね?
あんたは最高の旦那だよ?愛情は1ミリも持てなかったけどね!
もしこれが全部聞こえてるんだったら「こんなはずじゃなかった」なんて思ってるんだろーね、ふふ。でもさ、こんなのと結婚したいって言ったのはあんたのほうだからね?他の誰でもない、自分がよーくわかってるでしょ?覚えてるでしょ?だーかーらー、ジゴウジトク。わかる?自分のせいなの。
あたし何回も言ったよね?風俗嬢と結婚なんて普通に考えて無理でしょって。なのに「それでも」って押し切ったのは誰でしょう?そう、あんた!くくく、バカだねーほんと。泣けてくるくらいバカ。
あんたが「親の手前式はしないと」って言いだしたときはちょっと焦ったけどさ、あんたが「便利屋使えばいいよ」って言うから親役はもちろん上司役やら友達役やら何人も雇ってね、あれはすごかったよねー。さすがのあたしもあのときはちょっと緊張したわ。
あっ、もう一つぶっちゃけていい?結婚のきっかけって子供だったじゃん?あんたはデキ婚でもいいからって言ってくれたけどさ、結局ああしたのは私の意思だったでしょ?「あなたのため」みたいなこと散々言ったけどさ、それであんたも理解した、みたいになったけどさ。
…実はあんたもわかってるんでしょ?あのときはあたしに無理くり押し切られたってこと。自分の意見はやんわり無視されて、さも「未来のあたし達のためにはこうするしかないんだ」って体であたしの希望だけがするすると通っていく感じ?
ほんと、世間知らずって罪だよねー、これからは気をつけなね?ってもう遅いか!あはは!じゃあ、来世でがんばってー、くくく。
…話は戻るけどさ、さすがのあたしもね、あんたと結婚するのにあんたじゃない父親の子を産むのはちょっと躊躇したっつーか。
今なら別にそんなこと思わないけどね。でも結婚してからほとんどしなかったしね、あ、したくなかったからだよもちろん。ごめんねー。
なんかもうさ、あんたと結婚してから人生が楽勝すぎてさ。おかげでもともと悪かった性格がここまでねじ曲がっちゃったって感じなんだよね。
でもしょうがなくない?嫁を甘やかすからこうなるの!で、今まさにあんたの金目のものすべてがあたしのモノになるまでのカウントダウンが始まってるってわけ!そーゆうことだからさ、
ねえねえ、ぶっちゃけあとどれくらいで死ぬの?1時間後、2時間後?できれば24時間以内にしてね、1秒でも早く家に帰りたいから!この機械がピーって鳴ったら死んだってことだよね?早く鳴ってくんないかなー、あはは!はいあなたの嫁は鬼嫁でーす!最低最悪のクソ女でーす!!
おっと、いけないいけない、また話が逸れちゃった。
あのときのあんたはつまりね…自分が傷モノにした女に対して責任を取ったつもりが、他の男の子供を孕むような女にATMにされてただけってこと。
うわー、こうやって口に出すとやっぱりちょっとねー、若干自分で自分に引くわ。あたしも一応人間だしね。良くないことだってのはわかってるよ?自覚はあるよ?ちゃんとね。自覚ないよりはマシっしょ。
その代わり悪かったなーとかはあんまり思ってないけど、ふふふ。
でもさ、こんなのに喰い物にされたあんたのバカさ加減のほうが相当ヤバいでしょ。自分でもそう思わない?思うでしょ?だーかーらー、私も悪いけど、いちばん悪いのは、あーんーた。くすっ。
あとねー、あんたが一目惚れしたこの顔だけど、お察しの通り整形だから!あはは!
整形もそうだけどね、なんていうか、元の顔だった時代の自分を一刻も早く辞めたかったの。どうにかして生まれ変わりたかったの。
だから風俗に行って、整形費用と贅沢な生活を手に入れようと思ったんだよね。でもさー、女って、とにかく金がかかるわけ。服でしょーバッグでしょーアクセでしょー靴でしょー、メイク道具もそうだけどネイルとマツエクは定期的にやらないとだしカラコンもワンデー使ってたし、脱毛とか美容室とかもう大変なわけ。さらに整形だよ?金っていくらあっても足んないからさ、実はもう一件やってたんだー、本番ありのとこ。あはは!
あっもちろんデキないようにはしてたよ、そこでは。そしてあんたとも。
つまりー、実は別な人とかぶってたってこと。あんたはATM係でそいつは顔と気持ちいいセックス係。あっ、あんたにはセックス苦手ってことにしてたもんね、婦人科系の病気してから挿れるの痛いとか言って。
あれ、嘘だから!実際はそいつとヤリまくりだったから、あはは!やっぱりセックスはイケメンとに限るわー。気持ち良すぎて生で中出しとか当たり前だったしアナルもヤってたよ。っていうか、今もヤってる。さすがにあんたとはレスだからもうデキないように気をつけてたけどね。
つまり、デキてもいいって思って避妊しなかったんじゃなくて、ただただ気持ちいいセックスのためだけに生で中出ししてたってこと。
うん、ほんと最低だよね!二股もそうだけど、理想の自分に生まれ変わってそれを維持していくために身体を売るなんてさ。普通じゃないってあたしだってわかってるよ。
迷ったことだってたくさんある。生まれ変わりたいって思うほどの悩みがあたしにはあって、どうしたらいいのかをずっと考えてきたから。
でもね、後悔だけは一切ないんだな、これが。
なんでだと思う?
…あんたに出会えて、結婚できたからだよ。
…あんたと結婚できたから、あたしはこれで正しかったんだってようやく自信が持てたの。
女は年をとるたびに価値が減ってくでしょ?だからまずはそれなりの年のうちに結婚できないとダメ。
で、そこはクリアできた。
問題はその後。結婚で人生が決まるわけじゃないじゃん?
だけどあたしは、間も無く未亡人のステイタスを手に入れる。結婚はできて、独り身に戻ったけど失敗はしてないっていうステイタス。
だからあたしには、まだこれ以上幸せになれる可能性がある。
それはやっぱり、元を辿れば、生まれ変わってあんたと結婚できたから。
…あんたには気の毒だけど、あんたのぶんの幸せも全部吸いとって、あたしはもっともっと幸せになってみせる。
あんたみたいな優秀なATMはなかなか見つからないだろうけどね。
…そういえば、これ…あんたのメガネ。
あんたの顔なんてまじまじと見たことなかったからさ、このメガネがあんたの顔の一部って感じなんだよね、あたしにとってはさ。
割れてぶっ壊れちゃってるけど。
…店でのあんたのアダ名は牛乳瓶。
そ、このメガネのこと。
…へー、あんたってこういう顔だったんだ。
…
うわ…このメガネ、こうなってたんだ。はじめてちゃんと見た。
…いくらなんでもぶ厚すぎでしょ…横から見るとレンズの幅がめちゃくちゃあり過ぎて…フレームの3倍はあるじゃん。どれどれ…
うっわ!なにこれ?!
こんなもん常にかけてたわけ…信じらんない。
…どうりで視野が狂ってあたしみたいなクズ女に取っ捕まるわけだ。あはは…
…かわいそうな人生。
あんたの分もあたしが幸せになってあげるからね。
だから…
早く、
早く…
死んじゃえ。
作:米田リカ
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【キャラ紹介】
好きな人を庇って死んでいく主人公と、ぱっと見は優秀で可愛いけれど中身は真面目過ぎて痛々しい妹です。
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【シナリオ】
お兄ちゃん。
…
…もう、遅いんだ。
…ずっと「兄」じゃなくて、「お兄ちゃん」って、呼んでみたかった。
普通の、本当の兄妹みたいに。
もう、毎日毎日、今日こそはお兄ちゃんって呼ぶんだって、朝から晩まで機会を伺って、シミュレーションまでしてさ…
祝日とかゾロ目の日なんかさ、「お兄ちゃんって呼べた記念日にできるんじゃないか」なんてしょうもないことも考えたよ。そして…ふふっ、自分にドン引きしてさ。
でも、自分の本心って、欲求って、変えられないんだね。
そういう日は朝から晩まで緊張してたんだよ。
どうしても言えない「お兄ちゃん」をいざ言えるとしたら、それはもう絶対に特別なことで、記念日にして学校もバイトも休んでいいくらいのことなんだって。
あはは、ほんとアホだよね、知ってる。
でもさ、私の中では…少なくとも私の中では、「お兄ちゃん」って呼ぶことがいちばんの目標だったんだよね。
…
「お、に、い、ちゃ、ん」
この5文字、うん?ちっちゃい「や」も入れて6文字か…
なんで呼び方一つにこれだけ固執してんだか。
…
…ううっ、
うっ、く…
おにい…ちゃん…
…
おにいちゃん…
おにいちゃん…!!
…はじめて会ったときのこと、覚えてる?
私ね、あの日からずっと、心休まる日はなかった。
あっ、それだとまるで、つらいだけの日々だったみたいに聞こえちゃうか。
…私は、あのときから今までずっと、胸が苦しいままなの。
どこでだって私はたぶん、輪の中心人物だった。みんな私に寄ってきてくれるもの。
でもそれは、私がちょっとだけ周りをよく見ているから。
ほんのちょっと周りに気を配れさえすれば、そして笑顔でさえいれば、大抵の人は私を好きになってくれる。
だけどあなたには…お兄ちゃんには、それがなかなかできなかった。
いつもの私を、みんなに好かれる私を、あなたにも知ってほしかった。あなたにもそういう風に思ってほしかった。
だけど…他人にはできることがどうしても、お兄ちゃんにはできなかった。
だって、他人に本質を見抜かれたって痛くも痒くもないけど、お兄ちゃんには、知られたくなかった。
実はただの、空っぽな女の子だってこと。
だから勉強も頑張ったし、部活だって運動部にした。
勉強も元々はそんなに好きじゃなかったけど、やっぱり部活が辛かったなぁ。運動なんか大嫌いだったし、キツイ上下関係も嫌だった。
特に走り込み。あれなんかもう、毎日死にそうだった。生理の時なんかもうほんとに死ぬ気で走ってたな。
そんな時は思ったように動けなくて…怖い先輩に言いがかりをつけられたこともあったっけ。
それでも頑張って続けてこられて、それなりの成績も納めた。
勉強のほうはなんとか要領は掴めたから、進学校に受かってなんとか成績もキープできてるけどね。
…私すごくない?
…頑張ったんだよ。すっごく、努力したんだよ。
なんでか知ってる?お兄ちゃんに認められたかったからだよ。
空っぽのどこにでもいる子じゃ意味ない、
私が妹だってことが自慢になるくらいじゃないとダメだって、そう思って、ずっと頑張ってたんだよ。
可愛くい続ける努力だって…お菓子は極力我慢したし、毎日早起きして鏡に向かう時間を多く取った。
お兄ちゃんが友達に「お前の妹可愛いな」って言われてるときは「やった!」って思ってた。
…気を遣ってばかりの自分は、本当の自分じゃない。
そんなところを誰かに好きになってもらったって、嬉しくない。
だから、本当の自分に戻りたかった。何かを手に入れないとと思った。
それができたとき初めてお兄ちゃんって呼べる気がしてた。
…お兄ちゃんって呼びたかったのは、自分がはじめて「そうしたい」って思ったこと。いちばんに自分の中から出てきた素直な気持ちだったのに…
…結局、呼べなかった。
こんなことになってやっと口にできるようになるなんて…
…お兄ちゃん…
…聞こえてない…よね。
…血の繋がりがない兄妹は結婚だってできるんだっけ。違う?だけど、結婚は基本、他人同士がするものだよね。
だったら私は、兄妹でいい。お兄ちゃんの妹のままでいい。
妹は血が繋がってなくても他人じゃないもの。そうでしょ?
だけど…お兄ちゃん、私はお兄ちゃんが好きだった。お兄ちゃんとしても、男性としても。
お兄ちゃん以外の男の人で素敵な人なんかいない。見たことない。
視野が狭いって言う?ううん、そんなことない。
男の人なんて…素敵じゃない上に、気持ち悪いとか臭いとか、クズだとか汚いのとか、そんなのばっかり。
見た目が綺麗な芸能人だって、裏で何をしているんだかわかったもんじゃない。
だからこそ早く「お兄ちゃん」って呼べるようにならなくちゃいけなかったの。本当の兄妹にならなくちゃいけなかったの。
他人なんかと結ばれて家族にでもなられたら…ましてや子供が産まれたりなんかしたら、私は耐えられないって思った。だから、お兄ちゃんをお兄ちゃんとして見る努力を私はずっとしてきた。
だったら自慢の、勉強もスポーツもできる可愛い妹にならなきゃって。
お兄ちゃんにも認められなくちゃって。
なのに…なのに。
こんなのってないよ…
お兄ちゃんがもうすぐ死んじゃうだなんて…
どうしたらお兄ちゃんの可愛い妹でいられるのかをあの日からずっとずっと考えてきたのに…
どうせ結ばれないなら…他人同士でする結婚とか恋人なんて関係には興味ないって…本物の兄妹になれたらお兄ちゃんだけの妹、私だけのお兄ちゃんになるって、そう思ってたのに…
…あんな女を庇って犠牲になるなんて…あり得ない、あり得ないよ!
あんなただの他人を庇うなんて…そしてただの他人は助かっただなんて…
あの女が死ねばよかったんだ…
ねえお兄ちゃん、あんな女のどこが良いの?他人のくせに、あいつはお兄ちゃんの犠牲の上でのうのうとこれからも生きていくんだよ?そしていつかきっと、お兄ちゃんじゃない男と出会って付き合ってセックスするんだよ?そしてさ、いつか、お兄ちゃんじゃない男の人の子供を産むんだよ?
…悔しくないの?バカバカしくないの?
…私だったらそんなことしない。1人でお兄ちゃんの事だけ思って生きて、そして死んでく。
本当は今すぐ死んじゃいたい。すぐにだって死んで、先にお兄ちゃんを待っててあげたいよ…!
はは…そんなことしたらお兄ちゃん、天国でびっくりするだろうね。そして…怒るんだろうね。バカな真似してってさ。
バカはどっちよ…お兄ちゃんのほうがバカだよ…
お兄ちゃんが庇ったあの女より私のほうがずっと、お兄ちゃんのこと想ってるよ!
…これ、聞こえてたりすることってあるのかな?…まさかね。
万が一聞こえてたとしたって、自分には生意気な妹がこんなこと言ってるなんて、信じないよね。夢かなんかだと思うんだろうね。
…お兄ちゃん、これが私の、本当の気持ちだよ。
嘘じゃないよ、ずっとずっと、出会った時から思ってたことなんだよ。
お兄ちゃんがあの女と付き合うずーっと前から…
ぐすっ…
…何も伝えられないままだったもんね、だからせめて…っ、お兄ちゃんがいなくなっちゃう前にって、ぐすっ、そう今は、思ってる。
ううっ…
いいでしょ?お兄ちゃん…
…ねえお兄ちゃん、私、本当は、はじめてのセックスはお兄ちゃんとしたかったんだよ?
バカだって思う?でも私は真剣だったよ。今だってそう思ってるよ。なのに…
お兄ちゃんはあの女としてたんだろうね。キスして、触れ合って…あんな、いつか他の男とヤっちゃうような女のマンコに、挿れたんだろうね。
…お兄ちゃん、今すぐあんな女のことなんか忘れてよ?
無理難題言うなって思う?でも、あんなのってないよ。過去に戻れないのなら…お兄ちゃんがもう死んでしまうだけなら、せめて残った時間は私だけにちょうだいよ。
…ねえお兄ちゃん、見てよ?
ちゃんと成長してるでしょ?これでも男子にはモテるほうだし、胸だってあるほうなんだよ。
…お兄ちゃんが次の瞬間にも死んでしまったら嫌だから…仕方ないから1人でするね。
だけど、もし私の声が聞こえてるのなら、最後に残る記憶はきっと、私のことだよね。
…そんなことあるわけないか。
でも、もし聞こえてるなら…
あんな女との記憶なんか、全部消えちゃえばいいんだ。
うん…お兄…ちゃん…
ね、けっこう大きいでしょ?
周りからもよく言われるんだ、細いのに胸あって羨ましいって。
まだ、誰にも触らせてないんだよ?この胸も…唇だって…下だって。
もちろん、万が一お兄ちゃんとセックスできちゃったときのためだよ…だから、お兄ちゃんを想って…1人でして、気持ちいいことなら一通り覚えたんだから。
ここ…ここをこうすると、大きくなってね、気持ち良くなってくるの…んっ
お兄ちゃんと出会ってから触るようになって、いちばんに知ったんだよ、まずはここを弄ると気持ちいいってこと…はぁ
そして…気持ち良くなると…下が、…マンコが濡れてくるんだってこと
んっ、はぁ、うん…っ、
おにい…ちゃんっ…!
んんっ、はぁん…
ほら、ここをぬるぬるさせて擦ると…
んっ、う…くぅん!
…はぁ、はぁ、
よくお兄ちゃんのお部屋に勝手に入って、お兄ちゃんのいろんなもので、気持ちよくなってた…
机の角なんか何度当てたかわかんない、
お兄ちゃんの匂いに包まれて…1人でしてはイキまくってた。
ここに…ぬるぬるになったここに、お兄ちゃんのを挿れてほしかった…
はじめてのときって痛いんでしょ?そんなのもうお兄ちゃんとしか考えられないじゃん…んっ、くぅ…
もう…もう、叶わないなんて…
あっ、ああっ、
お兄ちゃんと…できないならさ…、はふぅん…
私の処女なんかなんの価値もないんじゃないの?
はぁ…はぁ…
可哀想なお兄ちゃんの真横でオナニーしてる腐れマンコなんか…ううっ、ぐすっ…
んっ、あっあっあっ…はぁ…
ふぅんっ、はぁん!
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…
お兄ちゃん…せめて触って…私のこと…ちゃんと感じてよ…
う…、ううっ
わかってる…わかってるよ、
お兄ちゃんなら、絶対私に触れないって。
私に触れたいと思ってないのに無理やりしたって…意味ないじゃん…
でも、私はお兄ちゃんのこと誰よりも想ってる…だから…
んっ…んはぁっ
最後に…んんっ、お兄ちゃんの顔を見ながら…はぁっ、いくね…
…きれいな顔。
そんな顔を見ながら1人でする日が来るなんて…
はぁ、はぁん…ああっ、
イク…イクイク…
お兄ちゃん…お兄ちゃん!
はぁ…もうダメ…
イク…イっちゃう…!
ーーーーっ!
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…
お兄ちゃん…こんなバカが妹でごめんね…
ううっ…
本当に…、本当にもう目覚めないんだね…時間の問題なんだね
…急がなくちゃ
…お兄ちゃん、あの女のこと、そろそろ忘れた?
…庇って死ぬくらいだもん、そう簡単には忘れないか
…じゃあ…やっぱりこうするしかないっか。
…お兄ちゃん。私、先に待ってるから。
来るなって言われても、行く。
あっちでならお兄ちゃんって呼べそうだから…
血の繋がりがなくて兄妹としても中途半端、男女の仲にすらなれないのなら、もう…こうするしかないの。
全然怖くなんかない。一発で成功させてみせる。
…
あはは、いろんな人に迷惑かけちゃうね。自分勝手な妹で恥ずかしいかな。
好きだからなんでも許されるなんて…妹だから許されるなんて、そんな考えなんかこれっぽっちもないよ。
だけど…だけどもうこうするしか、私は生きていけないの。
お兄ちゃんの妹として生きていけないの。
お兄ちゃんの妹として…
一つに…一緒になりたい…。
ぐっ……くうっ!
はは…やっぱ、ちょっと怖いや…
こんなんで死ねるわけないじゃんね…
ううっ、うっ…!
ぐすっ…うっ…
こっちじゃダメだ、死ねる気がしないよ…
一瞬…一瞬だけ…
それだけ通り過ぎれば…!
はぁ…はぁ…
迷うな!はぁ…何のために、何を思って生きてきた?
はぁ…はぁ…お兄ちゃんと、出会ってから…ずっとお兄ちゃんとって…
はぁ…はぁ…そうだ、私にはお兄ちゃんしか居ないんだ。
外面のいい私に寄って来る人になんか興味ない、お兄ちゃん…お兄ちゃんしか私には…!
ぐっ…ああっ!!
入った?…よし!
ダメ押し…もう…一回…!!
っ…がぁああっ!!!
うぁっ…これやば…ううっ…
あっでもこれって…成功…した?
くっ…うっ、ふふふ…
やった…やったんだ、
遂に…やったよ…お兄ちゃん…!
これでお兄ちゃんと一緒になれるんだ…!
目覚めたときには…お兄ちゃんと…本当の…兄…妹に…
くっ…
…かはっ
先に…行って、待ってて…あげるね…お兄ちゃん…
大好き…だよ…。